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なぜ湿板写真は「一発勝負」なのか?

  • 執筆者の写真: esfahanchaihane
    esfahanchaihane
  • 2025年12月30日
  • 読了時間: 4分

“濡れている間”にしか写らない理由

この記事では、アンブロタイプやティンタイプの湿板写真について話します。

撮影に来たお客さんに湿板写真の流れを説明すると、「一発勝負なんですね」と言われることがあります。

確かにそうです。ただしそれは、緊張感を煽るためでも、精神論でもありません。湿板写真は、工程と化学反応の性質そのものが「一発勝負」になるようにできています。

まずは、他の写真との違いを整理してみます。



なぜ「やり直しがきかない」と言われるのか

デジタル写真は、撮影後すぐに結果を確認できます。うまくいかなければ撮り直せばいいし、露出が多少ズレていても後処理で調整できます。

フィルム写真にもある程度の許容幅があります。露出が極端に外れていなければ、プリントでどうにかなるものです。


湿板写真はそうはいきません。

露出の許容幅は非常に狭く、感覚的には1/4段以内に収めないといけません。少しでも適正な露出から外れただけで、白飛びや黒つぶれが起きてしまうのです。しかもその結果が、デジタル写真のようにすぐには見えません。


厄介なのは、シャッターを切る時点で、すでに多くの工程が終わっていることです。薬品の状態は日々変わり、季節や天候にも強く左右されます。湿板写真において撮影はスタートではなく、すでに進行しているプロセスの途中なのです。

シャッターを切る時点で、すでに結果に影響する条件の多くが決まっています。これが湿板写真の前提です。




なぜ“濡れている間”でなければならないのか

湿板写真というと、ガラスや金属に像が写る技法だと思われがちです。しかし、感光しているのはガラスそのものではありません。

反応しているのは、コロジオンという溶液の中に溶けているハロゲン化銀です。このハロゲン化銀は、プレートが濡れている間しか均一に存在できません。均一であること自体が、像が成立する条件になります。


乾燥が始まると、プレート上の銀イオンの移動が止まります。その結果、感度は急激に落ち、像は部分的にしか成立しなくなります。

問題は「乾いたら写らない」ことではありません。乾燥によって、写るための条件そのものが失われます。これは失敗の話ではなく、物理的・化学的な制約です。




湿板写真では、撮影は工程の一部にすぎない

湿板写真の工程は、大まかに次のように進みます。

ガラス板を徹底的に磨き(アンブロタイプの場合)、ポーズ(構図)を決め、コロジオンを塗り、硝酸銀に浸し、撮影を行い、現像し、定着する。

これだけで最低20分はかかります。そしてコロジオンを塗ってからは、どのように化学反応をコントロールするか、すべて写真家の手にかかっています。


撮影は結果を得るための行為というより、進んでいる化学反応を、適切な段階で制御する作業に近いものです。

例えば現像行程で、止めるタイミングを誤ると反応は進み続け、像全体に白い霧がかかった状態になります。いわゆるフォグです。



これは避けたい失敗の典型例です。


またこれはコロジオン塗布後に縁の方が乾いてしまった状態で撮影、処理したものです。



乾燥は均一に起きるわけではなく、多くの場合、縁から先に条件が崩れていきます。

湿板写真では、条件が揃えば像が生まれ、揃わなければ生まれません。部分的に条件がそろわず、味わい深い画像となることも少なくはありません。




湿板写真が「一発勝負」であるということ

湿板写真は、一度きりしか撮れない技法ではありません。同じ工程を繰り返せば、何度でも撮影はできます。


ただし、像を見て納得できなければ、最初からやり直しになります。ガラスの準備から定着まで、最低でも20分はかかります。失敗が分かった時点で、またガラス板磨きから始めることになります。

しかも、自然光で撮影していれば、光の状態は刻々と変わります。同じ条件は二度と揃いません。だから、そこに残る像も一度きりになります。


湿板写真が「一発勝負」と呼ばれるのは、そう呼ばざるを得ない構造をしているからです。

そして、そのすべての条件が揃い、階調のきれいな像が現れたとき、それはとても貴重で、美しい瞬間だと感じられるものなのです。



ティンタイプ
ティンタイプ







 
 

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