光で立ち上がる銀の像
- esfahanchaihane
- 10月5日
- 読了時間: 3分

アンブロタイプやティンタイプを初めて目にした人の多くは、こう思うかもしれません。「あれ、少し暗めの写真だな」と。
確かに、これらの湿板写真は、最も明るい部分でも、紙にプリントされた写真のように真っ白にはなりません。そのため、シャドーからハイライトまでの表現の幅──つまり階調(ダイナミックレンジ)は、一般的な写真に比べると狭めなのが特徴です。
ここで少し比較してみましょう。
ここから続く2つの画像は、同じティンタイプ(左)と紙にプリントした写真(右)を、光の条件だけ変えて撮影したものです。

上の画像は、暗めの室内光のもとで撮影しています。ティンタイプはやや暗く見え、プリント写真のほうは白から黒までのメリハリがはっきりしています。

次の画像は、同じ2枚を窓際の明るい自然光のもとで撮影したものです。ティンタイプの像は一気に立ち上がり、白から黒までの階調がくっきりと広がって見えます。一方、プリント写真も明るくはなっていますが、最暗部まで全体的にトーンが上がり、やや白っぽく感じられます。つまり、プリント写真の階調は固定されており、光の変化によって像の印象はあまり変わらないのです。
紙にプリントされた写真では、どんな光の下で見ても階調は変わりません。常に一様で、像は固定されています。暗めの写真を強い光で見れば全体が明るくはなりますが、階調が広がったようには見えないのです。
しかし湿板写真は違います。外から与えられる光によって、その姿が生き生きと変わり、像の奥行きや豊かさが現れるのです。強い光を当ててみると、その印象はさらに顕著です。金属銀の像が光を反射し、普段は沈んでいた中間調やハイライトが一気に立ち上がる。暗く見えた像の中に、奥行きや表情が浮かび上がるのです。
銀がつくる階調の不思議

湿板写真は、金属の銀の粒子によって階調が形づくられています。
銀と聞くと、銀食器やアクセサリーのようなキラキラとした輝きを思い浮かべるかもしれません。けれど、あの鏡のような光沢は、銀の原子がきれいに並び、一定の方向に光を反射することで生まれるものです。
湿板の銀はそうではなく、微細な粒子が不規則に集まって像をつくっています。そのため、日常的に輝いて見えるわけではありません。
ただし、光の下ではその銀の粒子が確かに反射し、そこにあった階調が一気に広がるのです。
インターネットで目にする湿板写真の多くは、撮影やスキャンの際に工夫されています。ハイライトから最暗部までの階調がしっかり見えるように撮影されていたり、スキャン後に明るさやコントラストが調整されている場合が少なくありません。
そのため、実際に湿板写真を手にとって光の中で見るときのような、「像が立ち上がる体験」はなかなか伝わらないのです。
湿板写真は、光に応じて表情を変える。「光の加減で変わる」と言うよりも、「光とともに像が立ち上がる」と表現したほうが正確かもしれません。画面越しでは決して味わえない、この不思議は実物を手にしたときにこそ、はじめて実感できる体験なのです。
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